Kyoto Research
[Event Report]ABAFを用いた新工法による自由曲面構造のプロトタイプ実験
Tachira Clubの1/15形状を用いた実建築スケールの検証
平面から弾性変形させて狙った曲面を生成する構造は、堺研究員の研究テーマの一つです。
このたび、東京大学建築学科建築学専攻 権藤研究室、名古屋市立大学大学院芸術工学研究科 木村研究室 、旭ビルウォール株式会社( AGB )とのコラボレーションにより、この構造技術を建築制作工法に応用する可能性を探る実証実験が行われました。形状はスペインのTachira Clubの屋根を1/15スケールで模したものを採用しましたが、構成するABAFユニットや施工プロセスは実建築への応用を前提としたスケールで制作し、新しい工法によるモノづくりの有効性を検証しました。
以下、その様子をレポートします。なお、本パビリオンは、2025年3月22日〜29日に東京大学で開催された学会「CAADRIA2025 TOKYO」にて展示されました。
近年、コンピュータ支援設計(CAD)や構造最適化技術の進展により、複雑な自由曲面の設計が現実のものとなってきました。しかし、こうした形状の建築物を施工する際には、型枠の製作や輸送、再利用といった面で多くの課題が残っています。
本研究では、これらの課題に対する新たな解決策として、自由曲面を効率的に構築するための型枠システム「Auxetic Bending-Active Formwork (ABAF)」を提案しています。ABAF、平坦なグリッド構造を現場で弾性変形させることで、正および負のガウス曲率を持つ自由曲面を形成する技術です。これを建築工程に応用することで、平面形状のまま輸送し、現地で変形させて再利用可能な型枠とすることを目指しています。
今回の実証実験では、スペインの構造家エドゥアルド・トロハによって設計された「Tachira Club」の屋根形状を参考に、1/15スケールのパビリオンを制作しました。制作工程は以下の通りです:
- 土台となる木型を作成し、その上にABAGを設置
- ABAF上からガラス繊維補強セメント(GRC)を打設
- GRC硬化後に、ABAFおよび木型を取り外し
ABAFのユニットは、東京大学、名古屋市立大学、ソニーコンピュータサイエンス研究所の3Dプリンターを用いて成形されました。1ユニットのサイズは約240mm × 200mmで、4~6つ程度のグリッドから構成されています。目指す形状が、盛り上がりから鞍型のようなへこみにかけて滑らかに変化するため、大きく分けて5種類のグリッドが製作されました。
「本件の検討のために、グリッド生成のアルゴリズムも新たに開発しました。グリッドサイズが大きすぎると、GRCが垂れてしまいますし、小さすぎると3Dプリンターでの成形に時間がかかってしまいます。そのほかに曲げやすさ、大きな変形が生じないかといった点を総合的に考慮した結果、今回の形状に落ち着きました。」(堺研究員)


キャプション:成形の様子。これが1ユニットとなる。
この3Dプリンターで成形されたユニットを組み合わせて、1枚の平面形状にし、それを木枠の上に載せます。



更に、GRCを塗布し、ABAFと木枠をはがしてパビリオンは完成しました。


完成したパビリオンのサイズは約4m x 2.6m x 1.3mです。
本パビリオンの制作にあたっては、ほとんどの工程を学生の皆さんが担当し、約10日間での完成に至りました。比較的短期間かつ専門的な技能を必要とせずに、複雑な曲面構造を構築できることを示すことができました。
自由曲面を持つ建築構造の施工には高度な加工技術や精緻な型枠が必要とされていますが、本工法では、ABAFを活用することで、こうした制約を大幅に軽減する可能性があります。
また、一般的な木製型枠は特定の曲面に合わせて制作され、一度使用すれば廃棄されるケースが多いのに対し、ABAFは繰り返し使用が可能であり、原理的にはユニットを組み替えることで異なる曲面形状を作り出すことができるという柔軟性を備えています。
「これまではコンピュータ上での設計や、掌に載るサイズのモデル制作にとどまっていましたので、このスケールで自らの構造体を実際に形にするのは初めての試みでした。不安と期待が入り混じる中で、1枚の平面から狙い通りの曲面をこのスケールで構築できたことは非常に嬉しく、意義深い経験となりました。
今回の試みによって、実際にパビリオンを完成させることができたという事実、またグリッドのスケール基準が得られたことは、今後の展開に向けた大きな収穫です。構想自体は5年ほど前から温めていたものでしたが、こうして物理空間に姿を現したパビリオンを目の当たりにし、改めてモノづくりへのモチベーションが高まりました。」(堺研究員)
このパビリオンの制作は、東京大学にて開催された、アジアの建築学・都市工学・情報工学のコンピューター支援デザインに関する学会CAADRIA2025 TOKYOの会期中に行われました。
※本研究は、JSPS科研費24K01031の助成を受けたものです。
関連論文
Title:Auxetic Bending-Active Formwork System for Free-Form Continuum Shells
Authors : Nakayama K., Awaji H., Sakai Y., Yoshikawa R., Hayashi S., Gondo T., Kimura T.
堺 雄亮研究員
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