「話して育てる、AI“分身”科学コミュニケーター」体験レポート

2025年6月・7月、日本科学未来館が行う実証実験公募プログラムの一つとして、笠原研究員の実証実験が行われました。この実証実験プロジェクトでは、人間の質問に答えてくれる便利な道具としてだけではなく、人間と相互に学びあい、ともに成長する共創パートナーとしてのAIの可能性に着目しています

実証実験公募プログラムは、未来館を実証実験のフィールドとして、「来館者とともに未来をつくる開かれた実験場」となることを目指す取り組みの一環です。現在進行形の研究開発や製品・サービス開発に関する実証実験を、未来館でオープンに実施することで、多くの人々が最先端の研究開発に参加し、そのフィードバックを開発や社会実装に役立てることを目的としています。本記事は、その笠原研究員の実証実験「話して育てる、AI“分身”科学コミュニケーター」を実際に体験した際のレポートです。

本実験は第三回目が10/25,26に予定されております。
ぜひ日本科学未来館にてご体験ください。
https://www.miraikan.jst.go.jp/events/202510254256.html

実験の概要と目的

笠原研究員は、人とコンピュータが融合することで生まれる“新たな人間性”に着目し研究しています。今回の実証実験では、「対話」をテーマに、AIを通じた新しいコミュニケーションの形と、人間とAIの共成長を探ることを目的としています。

通常、人間は一度にひとつの身体でひとりの相手としか会話できません。しかし、AIで分身を作ることで、同時に多数の人と個別に対話することが可能になります。AIが多くの人と会話を行い、その内容を本人にフィードバックすることで、人間本人も学習をして、そこから自分のAI分身の更新を繰り返す「本人と分身が相互に更新され続ける循環」を生み出します。そこから、どのような新しいコミュニケーションの形が生まれるのか?人間とAIは共に成長することができるのか?──それがこのプロジェクトの中心テーマです。

AI“分身”コミュニケーター

まず初めに、事前に科学コミュニケーターに対して行ったインタビューの内容をもとにAIコミュニケーターが構築されました。科学コミュニケーター本人に「どのように展示を説明するか」「どう感じているか」「来館者とどのような対話を心掛けているのか」といったインタビューを行い、その情報をもとに、AIの応答スタイルや内容が設計されています。また、音声も本人の声をもとにした合成音声で応答するように設計されており、より「本人と会話をしている」感覚が得られるようになっていました。

実験期間中は、本人がAIクローンの発言ログや来館者との対話内容を逐次受け取り、自身のコミュニケーションを振り返りながら、AI分身の発言内容やスタイルの調整・アップデートを行いました。

この実験では10台の端末が用いられました。2人の科学コミュニケーターそれぞれに対して5台ずつのクローン端末が用意され、これにより、1人のAI“分身”コミュニケーターが同時に5人と会話できる環境が構築されました。

実際の体験

展示フロアでは、専用のスマートフォンを持ち、常設展示を自由に巡りながらAI分身コミュニケーターと対話を行います。展示の前に立ったことを伝えると、来館者の興味や視点に合わせて話題を展開してくれます。

こちらから質問を投げかけると、それに対して深く掘り下げた質問を返してくれます。展示の気になった部分について伝えると、より詳しく教えてもくれました。

左:開始時の画面
中央:「地球環境とわたし」のコーナー。

   こちらの質問に応じつつ、やりとりを広げる新たな問いを投げかけてきた
右:ロケット用エンジンをみて、配管について会話したときの様子。より詳しい情報を答えてくれる

また、質問に対して「あなた自身はどう思いますか?」という問いかけに対し、AI分身が本人の視点を踏まえつつ回答をしてくれます。「私は細胞の展示がおすすめ」など、科学コミュニケーター本人の好みに合わせた返答もありました。

「100億人でサバイバル」のコーナーにて

AIを介した対話の新たな可能性

科学コミュニケーター本人にとっても、AI分身が来館者とどのような対話をしていたかをログで確認するだけでなく、参加者から寄せられた感想や意見に触れることで、自らの話し方の癖や、対話の傾向をあらためて見直す機会になったとのことです。

AIで自らの分身を作る、人とAIが共に成長をする、、といった要素が交差する本実験は、「自己の拡張としてのAI分身」「対話とは何か」、「AIと自己のあるべき関係性とは」といった笠原研究員の問いから生まれています。今後、この実験を通じて得られた知見がどのように研究として発展していくのか、引き続き注目いただければ幸いです。

「話して育てる、AI“分身”科学コミュニケーター」

  • 実施期間
    2025年 6月12日(木)~6月19日(木)、7月21日(月)~31日(木)
  • 開催場所
    日本科学未来館 5階 常設展示ゾーン

本実験は第三回目が10/25,26に予定されております。
ぜひ日本科学未来館にてご体験ください。
https://www.miraikan.jst.go.jp/events/202510254256.html


実証実験公募プログラム 初回採択プロジェクトが6月から始動 AIクローン技術の実証など

https://www.miraikan.jst.go.jp/news/press/202506044075.html

(2025/6/4 日本科学未来館 プレスリリース)

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