シニアフェロー
[Event Report] 「Expertise Science and Technology(ExScite)」ワークショップ 開催レポート
2026年4月27日、技能の抽出・転写・限界突破・原理解明に関する国際共同研究キックオフのワークショップ「Expertise Science and Technology(ExScite)」がFabCafe Kyotoにて開催されました。
本ワークショップは、古屋晋一研究員が研究代表を務めるJST ASPIREの研究課題「技能の継承・限界突破・原理解明を実現する国際研究コンソーシアム」(課題番号:JPMJAP2503)のキックオフとして実施されたものです。音楽や伝統文化、医療といった多様な技能領域を対象に、スキルの計測・解析・転写技術の開発と、技能獲得を担う脳と身体の原理解明を目指しており、その全体構想が共有されました。また、スキルに関する研究が工学・神経科学・人文社会といった複数分野にまたがることを踏まえ、学際的な研究プラットフォームの構築も提案されました。神戸で開催されたNeural Control of Movement(NCM)に合わせて来日した研究者が京都に集う機会を活かし、国際的な研究ネットワーク形成に向けた重要な第一歩となりました。

本ワークショップでは、スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)のフリードヘルム・フンメル先生、アレクサンダー・マティス先生、京都大学大学院情報学研究科/ATR脳情報通信総合研究所の森本 淳先生、東京大学大学院情報学環の石黒 祥生先生、ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)の暦本 純一シニアフェロー、古屋 晋一研究員の6名が登壇しました。
最初に古屋研究員から、本ワークショップの背景とともに、身体スキルの科学的理解に関する研究が紹介されました。スキルの本質が言語化しにくいことや、学習停滞(プラトー)といった課題に対し、神経科学とAI・ロボティクスを統合することでスキルの構造を解明し、個別最適化された学習支援や技能伝達の高度化を目指すアプローチが示されました。さらに、ピアノ演奏を対象としたデータ取得や教育への応用など、音楽教育やトレーニング分野への社会実装の取り組みも紹介されました。
次に、石黒先生からは、視線計測や3D環境計測、モバイルプラットフォームを活用したスキルの記録・伝達に関する研究が紹介されました。日常環境における行動を継続的に取得し、多様なセンサデータを統合することで、技能の可視化・伝達や教育支援に向けた新たなアプローチが示されました。


続いて、暦本シニアフェローからは、視線や一人称視点映像などのマルチモーダルデータを活用し、AIが人の行動や意図を理解・構造化することでスキル伝達を支援する研究が紹介されました。料理や茶道といった専門技能を対象に、行動の構造を抽象化して可視化し、文脈に応じてリアルタイムに助言する“伴走型のAI”による新たな学習支援の可能性が示されました。
マティス先生からは、強化学習や模倣学習を用いて身体スキルをシミュレーション上で学習・再現する研究が紹介されました。複雑な運動スキルの獲得には、単純な最適化ではなく、段階的な学習設計や人間の学習プロセスに着想を得たアプローチが重要であることが示されました。さらに、人間の行動や身体を再現する「デジタルツイン」を通じて、脳や運動制御の仕組みに迫る可能性についても議論が行われました。
また、森本先生からは、強化学習や模倣学習を活用したロボットのスキル獲得と人間への身体支援に関する研究が紹介されました。ヒトの動作データを用いてロボットがスキルを学習し、外骨格を通じて人の動作を支援することで、スケートボードやテニスといった複雑な動作の再現や拡張が試みられていました。人間とロボットが相互に適応する協調的な関係や、高齢社会における支援技術への応用可能性も示されました。
最後に、フンメル先生からは、非侵襲脳刺激技術を用いた学習促進とリハビリテーションに関する研究が紹介されました。脳をネットワークとして捉えた個別最適な介入や、学習段階に応じた刺激・訓練設計の重要性が示されました。さらに、AIやロボティクスを活用した学習支援についても議論が行われ、単なる効率化ではなく、適度な「摩擦」や主体的な試行錯誤を含む学習環境の重要性が共有されました。


本ワークショップでは、身体スキルの学習限界とその克服に向けたAI・ロボティクス・神経科学的アプローチについて、国際的かつ学際的な視点から活発な議論が行われ、技能学習を支える認知・身体・環境の相互作用への理解を深めるとともに、人間とAI/ロボットが協調しながら能力を拡張していく未来像も共有されました。また、質疑応答や休憩時間、さらには終了後においても、参加者間で活発な議論が継続的に行われていました。国内外の研究者が一堂に会し、分野を越えた議論が進んだことで、今後の国際共同研究に向けた具体的な連携の芽も生まれ、ASPIREプロジェクトの出発点として今後の研究発展とコミュニティ形成に向けた重要な一歩となりました。

Tokyo / Kyoto
より自然な世界に人類を連れて行きたい - 暦本 純一
古屋 晋一研究員
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